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ブランドバッグはどこ?

更新日時:

2004/10/08 

 私もごく平均的な日本女性の常として、ブランド品にはもちろん興味はあった。バッグや財布、貴金属、コート等も、それなりに持ってもいた。ブランド品にかかわらず、日本人には本物志向の人が多い。それも年取れば取るほど安物は似合わなくなる、と人は言う。私がミキモトで真珠のネックレスを購入する時、一緒に付いてきた母の友人は言ったものだ。「7ミリの真珠を買うと結局また買いなおすことになるから、最初からいいものを買ったほうがいいわよ。」と。

 

 PAULと婚約してまもなく、アメリカの両親の家に挨拶に行くことになり、私は以前から欲しかったシャネルのバッグをアメリカで買おうと決心した。円は最高に高いし、まだ独身、買うのはお金に余裕のある今だ!

 

 実は私はそれまで二十カ国近く旅をして来たのであるが、アメリカには行った事がなかった。別に避けていたわけではない。ただ、車社会の国は個人旅行には適さないので優先順位が下であったということにすぎない。いや、正直に言おう。歴史の浅い国には興味がなかったのだ。(PAULさん、ごめんなさい~。)

 

 ということで、未知の国アメリカで買い物するにあたり、新宿のデパートのショーウィンドに飾ってある実物をでPAULに見せに行った。価格は20数万円。「アメリカではきっともっと安いと思うのよね。」と言う私の横で、PAULは値札を見て内心驚いたが、まだ夫婦ではないので何も文句は言えない。「大丈夫、見つけられると思うよ。」と言うのが精いっぱい。

 

 しかし、甘かった!PAULを頼りにせずに自分でサーチすべきであった。ただ言い訳させてもらうなら、観光地でないこの州都の情報は当時の日本のガイドブックには載っていなかったのだ。今なら私も、ブランド品はこの街のどこで購入すればよいか熟知しているが、この頃は私もPAULも、そして彼の家族も無知だった。私たちはデパートをさまよい、モールをさまよった。PAULがシャネルの化粧品売り場の店員に聞く。「シャネルのバッグどこで売っているか知っている?」「シャネルのバッグ。そういえばシャネルにバッグがあるって聞いたことあるわねえ。」なんともすっとぼけた答えが返ってきた。PAULは続ける。「彼女が欲しいんだ。東京では2000ドルするんだよ。」「ひぇ~バッグで2000ドル!」このような会話があちこちの店で数回続くと、さすがの私もうんざりしてきた。

 

 もちろんアメリカ人にもブランド好きはたくさんいるだろう。事実、数年後に会った私のペンパルの犬の名前はグッチとフェンディだったし。ただ、広いアメリカの中都市では、お金持ちと普通の人はめったに出会わない。ここでは日本では庶民も持っているブランド品に興味を持つのは大金持ちしかいないらしい・・。

 

 なんだかばからしくなってきた。当時私たちはすぐにでもアメリカに移住するという話だったので、ここが私の住む町ということになる。この町で庶民がシャネルを持っていても、誰も気がつかない。もし、私が値段を告げたら、バッグにそんなに費やして何たる馬鹿だと思われるのがオチだろう。PAULも大変な妻を持ったと同情されるかもしれない。そして私は自分の愚かさにも気がついた。シャネルを欲しいのはいい物だからではない。皆にシャネルと気がついてもらえるから、ステイタスとして持ちたかっただけなのだ。ミキモトで8ミリの真珠のネックレスを購入したのも7ミリと比べてしまったから。でも実際隣に8ミリの真珠がなければ7ミリだって立派なものだ・・。

 

 私のブランド熱は帰国する頃にはすっかり冷めてしまった。しかし、同僚にダンヒルの財布を頼まれていたのでそれは買わなくてはいけない。旅の時間は限られていたので、乗り換え地のLAの空港の免税店で買うことにした。免税店にはあれほど探してもなかったブランド品が山ほどあった。そして客は日本への出発便の時間だったためか、みんな日本人。なんだかPAULが外国人に見える。PAULが「ETSUKOさ~ん」と店の奥にいる私を呼んだら「は~い。」と返事をしたのは店員だった。そこはロサンゼルスでありながら間違いなく日本だった。

 

 最近のCNNのニュースで、今アメリカはブランド熱が高まり、新しい市場になりつつあるのだと、ルイウ"ィトンの社長がインタビューに答えて言っていたそうだ。そして日本では、バブルもはじけ、お古が嫌いだった人たちもリサイクル品に抵抗がなくなり、安く買ったものを自慢しあうようになった。高級ブランド店と100円ショップを上手に使い分ける時代になったのだ。

 

 現在、私はブランド品や貴金属にまったく興味が失せ、高級品とは無縁の生活を送っている。だが、たまにふと思う。なぜか未だに日本にいる私たち。当分移住する予定はない。やっぱりあの時、買っておけばよかったかな~。

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