ミニクルーズはクルーズではない。(ギリシャ)
最初はギリシャとトルコを半々に旅する予定だった。しかし、いろいろガイドブックなどを読み進むにつれトルコにより多くの魅力を感ずるようになってしまった私たちは、ギリシャにはアテネに2泊のみということで落ち着いてしまった。はっきり言ってエーゲ海1日クルーズに参加するためだけに入国したようなものである。
クルーズといえばかっこいいが、はっきり言って1日クルーズはけっしてクルーズではない。もちろん若輩者の私には豪華客船クルーズの経験は全くないが、映画や本などで多少の知識はある。日帰りなので、宿泊施設がないのは当たり前だが、レストランにしたって、私のイメージするところからはほど遠い。
最初はコバルトブルーの海に白い建物、そしてエーゲ海の島々という魅惑的な響きに酔いしれていた私たちも、半日もすればさすがに飽きてくる。どこまでも行っても同じ海の色、途中で立ち寄る島々もはっきり言って代わり映えしない。
驚いたことにこんな船にもプールはあった。たった1日のクルーズなのにそのプールに入っている人たちがいる。だだっ広いプールサイドで水着で横たわっている集団はまるでトドのようだ。今彼らは何を思い、プールの中にいるのだろうか。この人工の箱からは美しいエーゲ海は全く見えないのである。
大勢のクルーズ参加者の中で日本人は私と友人の二人だけ、と思っていたらもう一人いた。名古屋の女子大生だ。香港のツアー客と一緒にいたからわからなかったのだ。私たちが日本人だと気がついた彼らの添乗員が連れて来てくれた。彼女はお金持ちの香港人たちにマスコットのようにかわいがられていて、船で売っているアクセサリーなどを買ってもらっていたようだった。
斯く言う私も、実はクルーズ中ずっとイタリア人男性に追い掛け回されていた。「追い掛け回されていた」、と言っても、私たちに共通の言語はなかった。彼は英語が全くできなかったのだ。彼のできることといったら時々私の横に来て仲間にツーショットの写真を撮らせる。そしてそれ以外の時間はじっとどこからか 見つめている。
島から船に戻った時、彼が突然「present for you.」と言って黄色い封筒を差し出した。戸惑いながらもサンキューと言って受け取るとそれは船と契約している業者がかってに撮った私の写真だった。観光地ではよくあることで、無断で撮ったものだから私は笑ってもいないし、カメラ目線でもない。ただむっつりと歩いている写真。質も色もアングルも悪い上に値段も高い。手持ちのカメラがあるのに何でこんなものを買わなければならないのかと、売られているのを見たけど無視して通りすぎたのに、なんと彼がそれを見つけて買ってきたらしい。
夕方になると船上レストランではダンスと歌のショーが始まった。しかし、私は顔を上げられない。常に私の視界の中に入るようにイタリア人男性が立っているからだ。はっきり言って言葉で口説かれていたほうがまだマシだ。これではまるでストーカー状態。もっとも当時の日本にはそんな言葉はなかったけれど。
船の中での食事については全く覚えていない。覚えていないということは大したことはなかったのであろう。ミニクルーズの利点、それは「エーゲ海でクルーズをしたことがある。」と自慢できる、それだけかも。