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修学旅行の中学生にモテモテ

 数年前、私たちはアメリカからのゲスト、ショーンとキャリー(仮名)を連れて、京都と奈良に出向いた。季節は風薫る五月。まさに旅日和の清々しさだ。しかし、到着するまで気がつかなかったことがひとつあった。修学旅行シーズンだったのである。

 

 奈良で、私たちは大阪在住のドイツ人(夫)+日本人の夫婦と落ち合い、楽しく散策していた。ふと気がつくとショーンがいない。あれっと思い、見回してみたら、彼はいた。なんと中学生に取り囲まれていたのだ。ほどなくして連れの外国人全員が彼らに捕まった。取り残された日本人のK子と私は「もし私たちが日系外国人だったら怒っちゃうよねえ。」等と冗談を言っていたら、突然、女子中学生に声をかけられた。「写真を撮ってくれませんか。」カメラを渡されて、被写体の人物たちを見たら、なんと中学生に混じってポーズを取っているPAULたちがいるではないか。おいおい。

 

 昨今の中学校の修学旅行は、団体行動ではなく小グループに分かれての行動が多い。そして驚いたことに、観光に来ている外国人に質問するという宿題が課せられている学校があるのだ。「Excuse me.」 まず勇気ある子が話しかける。「May I ask some questions?」 ちゃっかり便乗組もペンを握り締めて答えを待っている。質問はたわい無いものが多い。知っている日本の有名人は、とか、好きな日本料理は何かとか。質問はあらかじめ用意されてあって、生徒はそれを読むだけなのだが、答えに対するマニュアルはない。彼らに出来ることは、外国人が答える度に、ただ歓声を上げることのみである。この不可解なリアクションにショーンは、「僕がしゃぶしゃぶが好き、と答えるたびに皆が笑うのはどうしてだろう。」と悩んでいた。

 

 車社会に住み、歩くのに慣れていないのに歩かされて、ちょっと不機嫌だったキャリーは東京では経験しなかったスター気分を、ここ古(いにしえ)の都で味わうことができて、すっかり機嫌がよくなった。翌日の京都では、なぜか突然アレルギーになり、くしゃみを連発、洟をかみながら、まだ誰にも頼まれていないうちから、「今日は悪いけど写真に入ってあげられないわ。」などとすっかり勘違いモードの彼女であった。

 

 さて、最後は太秦での出来事から。

中学生の団体が、PAULたちを見つけ「ガイジンだ!カモーン!カモーン!」と叫んだ。「まあ、犬を呼ぶみたいに、なんて失礼なやつらだ。」と思ったのは私だけだったようで、のこのこと出向くPAULたち。中学生たちはそこにいる一人の若い女性を指差して言う。「シーイズ、イングリッシュティーチャー。」 生徒に挑発されたそのティーチャーは、なぜか固まっている。その間、生徒たちは「一緒に写真撮ろうってなんて言うのかな。」と相談しあっているのに、それも無視。この若い先生は、ただひたすら、それもなぜか私の顔を見て、にこにこしているだけだ。とうとう先生の助け無しに生徒たちは「テイク、ピクチャー、トゥゲザー。」と意思を伝えるのに成功。彼らはイングリッシュティーチャーに写真を撮らせた。シャッターを押しながら「チーズ」すら言わない先生。生徒の前で失敗したくなかったのね。気持ちはわかるけど、でも何か言うべきだったと思う。生徒たちは先生の英語が果たして通じるのか興味深々だったのだから。そして先生は知らなかったけど、日本人英語に慣れているPAULは、けっして先生に恥をかかせることはなかったのに。やっぱり教室での英語は通じないのだと、生徒たちを落胆させた先生の罪は大きいと私は思う。

 

 しかし今思えば、PAUlも何か話しかけて、きっかけを作ってあげればよかったのに。気が利かないなあ。

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