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 道に迷う

 実は私はかなりの方向音痴である。以前ネットで、男脳女脳のテストをしたら限りなく男脳に近いという結果が出て、ちょっと動揺したことがあるが(その結果に周りが驚かなかったという事実にも少なからず衝撃を受けた。)、道に迷うということは、私は間違いなく女脳の持ち主であるということである。かのベストセラー「話を聞かない男、地図が読めない女」は私に、自分はしっかりと女であるという確信を与えてくれたのであった。ついでに引き出しの中の物を10センチ移動させただけで探せなくなるPAULも、間違いなく男である。それはともかく、私は常に必要以上に無駄に歩いているのである。

 

 最初に一人歩きをした国イタリアでは、ベニスこそ無事だったが、フィレンチェでさっそく迷った。宿泊しているホテルに帰れず、知らないお兄さんに送ってもらったのである。(別に頼んだわけではない。)その後食事に行こうなどと誘われ断ったら、頬にキスしてあっさり帰っていった。イタリア男の単なる社交辞令だったのだろう。その後ローマでもしっかり迷った。まだ英語の話せない頃だったが、旅の終わる頃には道の聞き方だけは上手になった。

 

 バンコクでは友人と一緒だったが、友人も私を上回る方向音痴で、一緒に朝ホテルを出て四角く歩いたら、もう帰れなくなり、お巡りさんに教えてもらいやっとのことでホテルにたどり着いた。ちなみにこのホテルは中華街にあり、把握できていないタクシーの運転手も多く、たとえタクシーに乗っても、着くまで安心できないのだった。

 

 ウィーンでは、着いたその日にコンサートのチケットを入手、その晩さっそく徒歩で行くことになり、ホテルのフロントで、地図の上を辿りながら行きかたを教えてもらった。しかし英語のわかるはずの私の耳の上を彼の説明はなぜかそっけなく素通りし、代わりに英語の話せない、海外旅行も今回が2回目で、しかも6年ぶりという友人がしっかり理解してくれた。彼女は自信満々に、生まれて初めてのヨーロッパの町を一度も迷うことなく、私の手を引いて目的地まで誘導してくれ私の尊敬を勝ち取ったのであった。

 

 アムステルダムでも、犬を散歩させているご婦人にホテルまで送り届けてもらった。ユトリヒトでは、駅からまるっきり反対の方向を歩いていたことを、地元の女性に指摘してもらうまで気付かなかった。しかしその後出かけたベルギーのブリュッセルもアントワープも道迷い人になんと優しい土地であったことか!

 

 方向音痴に加えて、私はせっかちで早合点、しかもいい加減で、基本にも忠実ではなく、この道でも大丈夫かも、と応用をきかせてしまう身の程知らず。加えて大胆である。ガイドブックに「バスで5分」と書いてあれば、5分たったところで確認もせず本当に降りてしまう。最近はさすがに反省して、ブロックごとに立ち止まって、地図で道を確認しながら歩くことにしている。年を取って分別も多少つき、以前より慎重になったのである。

 

 こんな私だが不思議なことに、よく道を聞かれる。日本だけではない。外国ででもだ。カメラをぶら下げた、きょろきょろ歩きの、誰が見ても明らかに地元民ではないのにもかかわらず。フランス語で聞かれたこともある。ポカンとしている私を見た相手は急いで英語に切り替えたのであるが。(その時は奇跡的にも教えてあげられた。)写真も撮ってくれと頼まれることも多いので(現像された写真を見て、さぞ後悔していることであろう。)、道がわかりそうに見えるというよりも、きっと親切そうに見えるのだろうな。期待に添えるように今後もがんばなくてはね。

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