日本では着られない服
遠い昔、沖縄でビーチドレスを買ったことがある。すそにひらひらがついたかわいいトロイカルカラーのサマードレスは夏の南国の島にとても似合った。私のお気に入りではあったが、残念ながら、その後は1回も着る機会がなかった。派手な色もすその短さもフリルも何もかも東京に住む私にはあまりにも派手すぎて気恥ずかしかったのである。
旅で服を買う時は要注意だ。非日常の世界にいるという高揚感の中で、選ぶときのセンスは普段の自分ではない。周りの雰囲気、風景も誤った選択を手伝ってしまう。
イタリアで買ったヨーロピアンスタイルの服。スペインのロエベで買った真っ赤なセカンドバッグ。トルコで買った皮の上下などなど、いずれも日本では絶対買わなかったと確信できる。
アメリカでは、私はリーバイスのショートパンツと肩まるだしのタンクトップでどこへでも行く。ももがあらわのベリーショートであるが、全然恥ずかしくない。私よりずっと年上でかなりオーバーウェイトの女性がもっとすごい格好で闊歩しているこの地で、「年と体型を考えろ。」と私に冷笑を浴びせる人はどこにもいない。しかし、日本ではこの同じパンツで外を出たことは一度もない。しっかり自分というものをわきまえているので。
しかし自宅でアメリカで撮ったビデオや写真を友人や家族や生徒たちに見せるときにショートパンツ姿の私を発見して思わずうろたえてしまった。うかつなことに日本でビデオを人に見せるという、そこまでの想定はしていなかった。
あるヨーロッパの有名なデパートで、添乗員が「これは日本では約3倍のお値段ですよ。」と叫んだとたん、そこにあった、はっきり言ってかなり高いウールのセーターがあっという間になくなったのを目撃したことがある。「4分の一でも日本ではけっして買わなかったんじゃないの~?」と、ちょっと意地悪な言葉が思わず口から出そうになったりして。
でも、それはそれで楽しいものだ。レールからけっして外れない人生は安全だけどつまらない。せめて旅の間だけでも自分の常識の枠から解き放たれたいものだ。
話は違うが、夏のPAULのお気に入りの服は甚平だ。彼は替えを何着も持っていて常に愛用している。「こんなに風通しが良くて涼しい服をなぜほとんどの日本人は着ないのだろう。」とは彼の素朴な疑問だ。しかし、アメリカでは室内でしか着ない。(持っていくだけでもすごいが。)パジャマで歩いていると思われてしまうので。
家の近所ならどこへでも着て行く彼ではあるが、風景にマッチしているはずの日本でも、なぜかじろじろ見られ、笑われるらしい。
「こんにちは~。」
「あら、PAUlさん、こんにちは。まあ、甚平!おほほ・・。不思議によくお似合いねえ。」
まあ、素直に誉められているのだと思おう。