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旅で出会ったイラク人(オランダ)

 あるオランダの中都市の塔を見学していた時に、地元の大学に留学中だという二人の若いイラク人に会った。湾岸戦争から3年ぐらいたった頃である。日本にはたくさんのイラン人がいるようであるが、イラク人と正式(?)に出会ったのはこれが初めてだった。彼らのうちの一人はなぜか私にずっと付きまとい、写真をバチバチ撮った後、私の次の目的地のオルゴール博物館にまで付いてきた。

 

 彼は驚くことにクリスチャンだと言う。それも祖父の代からだとか。今なら、そういえばあのフセインの時代の外相(だったかな?)もクリスチャンだったなと納得したかもしれないが、当時はイラクにはモスリムしか許されないと思い込んでいたので大層驚いた。「え、そんなことってあり得るの?クリスチャンで迫害されるとか、出世が遅れるとかそういうことはないの?」などと質問攻めにしてみたが、彼はそういうことはないと言った。「たとえ神様は違っても、信仰するということで共通点があるからお互いに尊重しあっているよ。」と。普通それが出来ないから宗教戦争は起こるんだけどなあ。と、彼は突然、聖書の中で語られている邪悪について熱心に語り始めた。(詳しい内容は、もう10年以上も前なのでほとんど忘却の彼方・・・。)

 

 彼は言う。「僕はヨーロッパ人が信じられない。皆結婚していないのに同棲している。(中略、というか、内容を忘れた。)僕たちアジア人にはけっして彼らを理解できない。」ここでお断りしておくが、イラク人の彼が自分のことをアジア人といったかは今はもう定かではない。あいまいな記憶で申し訳ないが、はっきりしていることは、彼は、私と彼をweと称したのであった。私たち非ヨーロッパ人にはヨーロッパ人は理解できないと。湾岸戦争の直後である。普通の日本人は、もし、どちらが理解できないかと聞かれたら、イラク人と答える人が大半であろう。それなのに彼はweと言ったのだ。ヨーロッパの文化に馴染めない彼は、日本人の私にもっと近いものを感じているのだ。私は何も言わずにただ黙って聞いていただけだったが。

 

 オルゴール美術館のツアーの締めはダンスの音楽だった。ツアーガイドが「皆さんダンスをしたい人はご自由にどうぞ。」と勧める否や、老若男女が皆一斉に踊り始めた。何と車椅子の人も楽しそうに踊っている。気がつけばふがいなく突っ立っているのは私とイラク人だけ。気軽に踊れるっていいなあ。やっぱり私たちはweなのかも、とイラク人に親しみを感じた一瞬だった。

 

 あれからイラクはまた戦争に突入し、今はまだ混沌とした状態だ。彼はいったいどうしているのだろうか。

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