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博物館への道のりは遠い(アンカラ)

 宿泊していたホテルを出て広い通りに出た私と友人は、考古学博物館への方向を確認するために地図を開いたとたん、大勢の人に取り囲まれてしまった。ウィークディの朝のことである。

 

 私たちがどこへ向かおうとするのか皆知りたがっているようだ。そして何か手助けをしたいらしい。英語のできる男性が代表して聞いてきたので、素直に目的地を言うと徒歩で20分くらいの距離だという。「それならタクシーで」と思ったのに、なんとその通訳者を通して「案内したい。」と買って出てきた人がいた。えっと思ったときは遅かった。群集は無事に解決できたことに満足して解散してしまい、英語の全くわからない案内者だけがそこに残されていたのだ。

 

 彼は通勤途中らしいのに、こんなところで時間を浪費していていいのだろうか。それにしてもこの人何物?まさかお金が目的?でも人通りの多い場所ではあるし、まさか強盗に変身したりはしないであろう。いずれにしても言葉が通じないので断るにも断れず、私たちは仕方なく一緒に歩くことにしたのだった。

 

 15分くらい歩いた頃だろうか。彼が突然ジェスチャーを使って何事かを話しだした。どうもドイツ語らしい。手をやたら閉じるしぐさをする。最初は何のことやらさっぱりわからなかったが、突然閃いた。彼は今日は博物館は休館日だと教えようとしているのだ。「そんな~ここまで来て。そんなの最初に言ってよ。」と奈落の底に落とされた私たち。しかし、彼を責めることはできない。彼も今思い出したのに違いないのである。

 

 博物館が閉まっているとわかってからも、彼の歩みは止まらない。「どうする?}とも聞かず黙々と歩く彼に、私たちも「しょうがない、せっかくここまで歩いたのだからせめて建物だけでも見ていくか。」と思い直し、とりあえず一緒に歩いた。

 

 ようやく目的地。なぜかドアが開いている。彼は私たちを置いて小走りに走り、係員に何か質問した後、おいでおいでのしぐさをした。入館できるらしい。休館日なのは本当だが、大口の団体が来ているため臨時に開館していたらしい、ラッキー。休館日のチェックを事前にしていなくてよかった。

 

 入り口に私たちが着いたとたん、彼はクルっと回れ右をして立ち去ろうとした。本当にただの親切な人だったのだ。少しでも疑ってしまったことを反省。急いで呼び止めお礼を言い、いっしょに記念撮影をして別れたのだった。

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