早朝の太極拳(台北)
私たちが宿泊したホテルの裏手には小高い丘があった。2日目の朝、早起きした私と友人は朝食前の早朝の散歩と洒落込んだ。
季節は12月ではあったが、亜熱帯に位置するだけあってとても気持ちのよい気候である。その日は日曜日ということも手伝ってか、公園の中はたくさんの人でにぎわっていた。そして老若男女がそれぞれの場所でそれぞれのグループを作って思い思いの体操をしていたのだった。
体操と一口で言っても、その種類はさまざまだ。その数ある中、で私たちは何となく、あるグループの太極拳を眺めていたら、一緒に参加しないかと誘われた。
そのグループのメンバーの大半は年配者であった。そしてリーダーは流暢な日本語を話した。見よう見まねで体を動かす私たちに彼らは、その動きの意味をひとつひとう丁寧に教えてくれる。この動きはここを刺激してこういう病気を予防するとかいうのであったが、今ではすっかり忘却の彼方で、その内容を断片ですら思い出すことすらできないのは大変残念なことである。
体を動かした後は栄養の摂取だ。彼らは暖かいそうめんを大きなお鍋いっぱいに用意していた。それは私が普段食べている日本の物とは全く違い、鶏肉としょうがで味付けしてある。体を暖めるので、妊婦に食べさすものであるということである。勧められた時、一瞬私たちの泊まっているホテルの豪華な朝食バイキングが頭の中をかすめたが、ありがたくいただくことにした。素朴で大変おいしかった。
実は今回の台湾行きは茶道の師匠と一緒だったので、私の旅には珍しく、すべての食事が大変豪華で、こんなにおいしい中華料理は後にも先にも食べたことがないというものばかりであったが、この朝のそうめんも私にとっては忘れられない味となった。
帰国後、私はこの朝撮った写真を人数分焼き増しして送ったら、程なくしてお礼の返事をいただいた。手紙は私が恥じ入るような達筆で、「朝の4時~5時頃は山上で太極拳をしているので、またいらしてください。お会いできるのを楽しみに致しております。」という一文で締めくくられていた。
あれから10年以上たつが、彼らは今でも同じ場所で太極拳をしているのだろうか。